・・・歴史の新たな担いてとして立ち現れた階級が持っている必然的な質のちがいが、ブルジョア婦人作家と窪川稲子との間に在ることは自明なのである。 私たちは、様々の苦しい目にも会いながら生涯ともに仕事をしてゆくであろうが、私としては、自分が様々の形・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・小説というものの真髄は昔っから型にはまった所謂小説らしさにあるのではないことは自明であるし、狭い好みでの心境描写にないことも今日では明かと思う。しかしながら、昔の言いかたでの小説ではなくても、それが芸術作品であり文学であり得るためには、やは・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・又、日本の現実の中で日本の人間が動いている小説を、外国小説ならばという仮定で云えないことも自明であるから、武田氏が云いたかったところは、自身書かれた文章のそういう矛盾のうちにふくまれている、日本の小説の性格形成の過程は西洋の小説とちがうとい・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・ そのプロテストが又いろいろの事情によって三四年前とは全く異り、手がこんでいてひねくれていて、はっきり自明なことではイヤイヤをするというのだから、相当なものです。いろいろ勉強と努力と成長とがいります。 近日中に又面会に参ります。今夜・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・元来シェストフの不安と云われるものは理性への執拗な抗議、すべて自明とされるものに対する絶望的な否定に立って、現実に怒り、自由に真摯な探求を欲することを彼の虚無の思想の色どりとしているのであるから、不安を脱出しようという精神発展の要因は含まれ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・この自明の道理こそ、民主の基本であると思う。わたしたちは、社会の公器が公器であることを欲する。公的な社会諸問題が、前進する日本の公的観点に立って、公的に処置されることを求める。日本人民の解放は、社会的な公私の逆立ちという、不自然な状態の排除・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・質問者は、シーモノフがゆったりした様子で坐りながら自明なこととして話すこれらの説明に満足したらしかった。 傍でそれらの問答をきいていてさまざまの感想にうたれた。ソヴェトの若い文学の世代、ピオニェールからコムソモールと育ってきた世代の若い・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・一切私が口を插まないという態度が、作家の客観性を保証することでないのは自明である。丹羽氏は現実に対して作家の人間的自主的な評価の責任を放棄した過去の受動的リアリズムをすてて、「生きかたの問題」としての文学創作に歩み出ているのであるから、文学・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・すなわち民族全体は、最も小さい子供から最も年長の老人に至るまで、その身ぶり、動作、礼儀などに、自明のこととして明白な差別や品位や優美などを現わしていた。王侯や富者の家族においても、従者や奴隷の家族においても、その点は同じであった。 フロ・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・これは自明のことである。しかしそれは恋をしながら同時に恋物語を書いて行くという意味ではない。製作は花、生活は根である。一つの生に貫ぬかれてはいるが、産む者と産まるる者との相違はある。偉大な花は深く張った根からでなくては産まれない。 真に・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫