・・・其所で疳は益々起る、自暴にはなる、酒量は急に増す、気は益々狂う、真に言うも気の毒な浅ましい有様となられたのである、と拙者は信ずる。 現に拙者が貴所の希望に就き先生を訪うた日などは、先生の梅子嬢を罵る大声が門の外まで聞えた位で、拙者は機会・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・そのとき自暴になったり、女性呪詛者になったり、悲しみにくず折れてしまってはならぬ。思いが深かっただけ傷は深く、軽い慰めの語はむしろ心なき業であるが、しかも忍び通さねばならないのだ。これを正しく忍び通した者は一生動かない精神的態度の純潤性と深・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ろうはずは無し、どうしているか知らねえが、それでも帰るに若干銭か握んで家へ入えるならまだしもというところを、銭に縁のあるものア欠片も持たず空腹アかかえて、オイ飯を食わしてくれろッてえんで帰っての今朝、自暴に一杯引掛けようと云やあ、大方男児は・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・稽古唄の文句によって、親の許さぬ色恋は悪い事であると知っていたので、初恋の若旦那とは生木を割く辛い目を見せられても、ただその当座泣いて暮して、そして自暴酒を飲む事を覚えた位のもの、別に天も怨まず人をも怨まず、やがて周囲から強られるがままに、・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ と云う自暴的な荒々しい囁きが、私自身の意識にせき上げて来る。私は一層彼女に穏やかに、親切に物を云う。――私が最近まつと極く短い時間しか口を利かないのを彼女は気づいているだろうか。気づいても、それをただ私の悲しみの為だと好意を以て解釈してい・・・ 宮本百合子 「文字のある紙片」
出典:青空文庫