出典:青空文庫
・・・「違うでしゅ、それでした怪我ならば、自業自得で怨恨はないでしゅ。……蛙手に、底を泳ぎ寄って、口をぱくりと、」「その口でか、その口じゃの。」「ヒ、ヒ、ヒ、空ざまに、波の上の女郎花、桔梗の帯を見ますと、や、背負守の扉を透いて、道中、・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・何をやらしてみても、力いっぱいつかいすぎて、後になるほど根まけしてしまうといういつもの癖が、こんな話のしかたにも出てしまったわけで、いわば自業自得ですが、しかしこうなればもうどうにもしようがない、駈足で語らしてもらうほかはありますまい。・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・たくさんとは言いませんがと畳に頭をすりつけたが、話にならなかった。自業自得、そんな言葉も彼は吐いた。「この家の身代は僕が預っているのです。あなた方に指一本……」差してもらいたくないのはこっちのことですと、尻を振って外へ飛び出したが、すぐ気の・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・そういう人は甚だ少くないが、時に気の毒な目を見るのもそういう人で、悪気はなくとも少し慾気が手伝っていると、百貨店で品物を買ったような訳ではない目にも自業自得で出会うのである。中には些性が悪くて、骨董商の鼻毛を抜いていわゆる掘出物をする気にな・・・ 幸田露伴 「骨董」