・・・廃刀令が出たからと云って、一揆を起すような連中は、自滅する方が当然だと思っている。』と、至極冷淡な返事をしますと、彼は不服そうに首を振って、『それは彼等の主張は間違っていたかもしれない。しかし彼等がその主張に殉じた態度は、同情以上に価すると・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・しかしお島婆さんがそれを狂言だと思った揚句、とうとう自滅したなんぞは、どう考えても予想外だね。これじゃ婆娑羅の神と云うのも、善だか悪だかわからなくなった。」と、怪訝そうに話して聞かせるのです。こう云う話を聞くにつけても、新蔵はいよいよこの間・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・すでに断絶している純粋自然主義との結合を今なお意識しかねていることや、その他すべて今日の我々青年がもっている内訌的、自滅的傾向は、この理想喪失の悲しむべき状態をきわめて明瞭に語っている。――そうしてこれはじつに「時代閉塞」の結果なのである。・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・という自滅的の論理を含んでいる。 新らしい詩に対する比較的まじめな批評は、主としてその用語と形式とについてであった。しからずんば不謹慎な冷笑であった。ただそれら現代語の詩に不満足な人たちに通じて、有力な反対の理由としたものが一つある。そ・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ そんな風に扱われては、支店長たちも自然自滅のほかはないと、切羽つまった抗議の手紙を殆んど連日書き送ったが、さらに効目はない。やっと返事が来たかと思うと、請求したくば、売り上げをもっと挙げてからにしろという文面だ。 そして、いきなり・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・蒲団が無くなり、火鉢が無くなり、机が無くなった。自滅だ――終いには斯う彼も絶望して自分に云った。 電灯屋、新聞屋、そばや、洋食屋、町内のつきあい――いろんなものがやって来る。室の中に落着いて坐ってることが出来ない。夜も晩酌が無くては眠れ・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・自殺の力もなく、自滅を待つほどの意久地のないものと成り果て居るのです。 如何でしょう、以上ザッと話しました僕の今日までの生涯の経過を考がえて見て、僕の心持になって貰いたいものです。これが唯だ源因結果の理法に過ないと数学の式に対するような・・・ 国木田独歩 「運命論者」
・・・押し強くなくては自滅する。春になったら房州南方に移住して、漁師の生活など見ながら保養するのも一得ではないかと思います。いずれは仕事に区切りがついたら萱野君といっしょに訪ねたいと思います。しばらく会わないので萱野君の様子はわからない。きょう、・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・語学の勉強を怠ったら、君たちは自滅だぜ。 分を知ることだよ。繰り返して言うが、君たちは、語学の教師に過ぎないのだ。所謂「思想家」にさえなれないのだ。啓蒙家? プッ! ヴォルテール、ルソオの受難を知るや。せいぜい親孝行するさ。 身を以・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・こうして、じりじり進んでいって、いるうちに、いつとはなしに自滅する酸鼻の谷なのではあるまいか。ああ、声あげて叫ぼうか。けれども、むざんのことには、笠井さん、あまりの久しい卑屈に依り、自身の言葉を忘れてしまった。叫びの声が、出ないのである。走・・・ 太宰治 「八十八夜」
出典:青空文庫