・・・ 自然人らしくさえある宗達が、画面に様式化を創めたのは興味深い。彼にとっては、おそらく万象が、量感にみち、色彩に輝き、声と動きとに満ちていたのだろう。此の世に満々たる美しさ、愛すべきものを、彼はたっぷりした資質に生れ合わせた男らしく、ど・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・高千穂峯で最初の火を燃したわれ等の祖先が、どんなに晴れやかさの好きな自然人であったか、またこの素朴な大海原と平野に臨んでどんなに男らしく亢奮したか。その感情が今日の我々にさえ或る同感を以て思いやれる程、日向の日光は明かで生活力がとけ込んでい・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・桜井忠温は日露の時代が生んだ一種の戦場文筆家であるが、この人の文章にもやはり火野と同様の素朴な自然人の感情と兵士の立場とが二つのものとしてのまま現れている。そして同じく戦場の異常性というものはその表現の上に極めて抑えられている。文化を動員す・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫