・・・ けれども、それもただわずかの間で、今の思はどうおいでなさるだろうと御推察申上げるばかりなのです。 自白した罪人はここに居ります。遁も隠れもしませんから、憚りながら、御萱堂とお見受け申します年配の御婦人は、私の前をお離れになって、お・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・芸者が料理屋へ呼ばれているのは別に不思議はないのだが、実は吉弥の自白によると、ここのかみさんがひそかに取り持って、吉弥とかの小銀行の田島とを近ごろ接近させていたのだ。田島はこれがためにこの家に大分借金が出来たし、また他の方面でも負財のために・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・と下等な遊びを自白して淋しそうに笑った事があった。その頃緑雨の艶聞がしばしば噂された。以前の緑雨なら艶聞の伝わる人を冷笑して、あの先生もとうとう恋の奴となりました、などと澄ました顔をしたもんだが、その頃の緑雨は安価な艶聞を得意らしく自分から・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・斯ういう気風は少年の時からあって、それが非常にやかましい祖父の下に育てられ、祖母は又自分に対する愛情が薄かったという風で、後に成って気欝病を発した一番の大本は其処から来たと自白して居る。明治十四年に東京へ移って、そして途中から数寄屋橋の泰明・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・を小判一枚で買ったとかいう話や、色々の輸入品の棚ざらえなどに関する資料を西鶴が蒐集した方法が、この簡単な文句の中に無意識に自白されているのではないかという気がする。 こうした外国仕入れの知識は何といっても貧弱であるが、手近い源泉から採取・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ ここで自白しなければならない事は、私等が交番へはいると同時に、私は蟇口の中から自分の公用の名刺を出して警官に差出した事である。事柄の落着を出来るだけ速やかにするにはその方がいいと思ってした事ではあるが、後で考えてみると、これは愚かなそ・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・私はその時なんという事なしに矛盾不調和を感ずる一方では、またつめたい薄暗い岩室の中にそよそよと一陣の春風が吹き、一道の日光がさし込んだような心持ちもあった事を自白しなければならない。 吹き込みが終わった文学士は額の汗を押しぬぐいながらそ・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・ 津田君は先達て催した作画展覧会の目録の序で自白しているように「技巧一点張主義を廃し新なる眼を開いて自然を見直し無技巧無細工の自然描写に還り」たいという考えをもっている人である。作画に対する根本の出発点が既にこういうところにあるとすれば・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・民衆批評家は作品の客観的価値よりはむしろ自分の眼の批評をするのであり自分の要求を自白する、だから、自分さえ構わなければ何を云っても構わないと同時に、被批評者は何を云われても別に自分の信条に衝動を感じる必要はないかもしれない。 そういう民・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・ 先生のこの主義を実行している事は、先生の日常生活を別にしても、その著作『日本歴史』において明かに窺う事が出来る。自白すれば余はまだこの標準的述作を読んでいないのである。それにもかかわらず、先生が十年の歳月と、十年の精力と、同じく十年の・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
出典:青空文庫