・・・私は気が着かなかったけれども当人自身は足が顫えたと自白する。昔ならたとい足が顫えても顫えないと云い張ったでしょう。何とか負惜みでも言いたいくらいのところへ持って来て、人の気がつきもしないのに自分の口から足がガクガクしたと自白する。それだけ今・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・なお自白すれば、熊本に来たてであります。私の前に誰か英語を受持っておって、私はその後を引受けた。エドマンド・バークの何とかいう本でありますが、それは私の嫌な本です。これ位解らない本はない。演説でも英吉利人が解るものならば日本人が字引を引いて・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・ 自白すると余は万年筆に余り深い縁故もなければ、又人に講釈する程に精通していない素人なのである。始めて万年筆を用い出してから僅か三四年にしかならないのでも親しみの薄い事は明らかに分る。尤も十二年前に洋行するとき親戚のものが餞別として一本・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・ 自白すれば私はその四字から新たに出立したのであります。そうして今のようにただ人の尻馬にばかり乗って空騒ぎをしているようでははなはだ心元ない事だから、そう西洋人ぶらないでも好いという動かすべからざる理由を立派に彼らの前に投げ出してみたら・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・「宮本がもうすっかり自白しているんだ。自分が読ましていたことさえ承認したら女のことでもあるし、早く帰してやって貰いたいと云っているんだ」 侮蔑と憤りとで自分は唇が白くなるようであった。刺すように語気が迸った。「――宮本が、どこに・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ハウスキーパーという名のもとに女性を全く非人間的に扱ったのは公判廷で自白しているとおり警視庁から入ったスパイの大泉兼蔵などであった。熊沢みつ子という若い婦人闘士は、ほんとうに大泉が共産主義者であり党の中央委員であると信じて、そのいうことを信・・・ 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
・・・放火人ファン・デア・ルッベは共産党員と自白し、後生大事に党員証を身体につけていた。しかし裁判で、ルッベがナチスのまわしものとしての正体が明かにされドイツ共産党幹部トルグラーやデミトロフは無罪となった。ルッベは死刑となった。 斎藤国警長官・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・ 四度目に自白して、ニコライの唯一の助手となり生涯を倶し、ニコライはどの位――さんにたよって居たかしれぬ。二人で日本最初の伝道を始めた。 ○ニコライの翻訳を手伝う人に、京都の中西ズク麿さんという男あり。大した学者。不具。手足ちんちく・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・八月十五日の深夜に、事実無根の自白をおこなった被告横谷武男、もと技工、同分会闘争委員が、どのようにして数名の検事たちから彼の親思いの気持と共産党員として党組織を信頼している感情を逆用されて、理性の混乱につきおとされたかということは、公判廷で・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・それは三鷹事件でも松川事件でも、敵が目をつけるぐらいの職場の積極分子である労働者たるものが、どうしてやりもしないことを「自白」したかということです。 世間普通の人間でも、すこししっかりしたものならぬすまないものはぬすまないと頑張ります。・・・ 宮本百合子 「ふたつの教訓」
出典:青空文庫