・・・『経世偉勲』は実は再び世間に顔を出すほどの著述ではないが、ジスレリーの夢が漸く実現された時、その実余人の抄略したものを尾崎行雄自著と頗る御念の入った銘を打って、さも新らしい著述であるかのように再刊されたのは、腕白時代の書初めが麗々しく表装さ・・・ 内田魯庵 「四十年前」
上 先生は約の如く横浜総領事を通じてケリー・エンド・ウォルシから自著の『日本歴史』を余に送るべく取り計われたと見えて、約七百頁の重い書物がその後日ならずして余の手に落ちた。ただしそれは第一巻であった。そ・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・ 志賀直哉が自著入りでやはり千円の本を出す、ときく心持は「まんじ」の場合よりも、もっと文学の圏内におこったことの感じであった。「暗夜行路」をくりかえしよんだ私たちの年代のものは、千円の本をつくる作家志賀直哉に対し、もし事実であるならば暗・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・ 著書が一時は全く世間から押しかくされる時期があることを慮って、尾崎氏は、自著を客観的に評価し、重要な書名を記録して居られる。「なお翻訳が一つあります」と楊子さんにあてて語られているのは、アグネス・スメドレイの「女一人大地を行く」であろ・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
・・・四月六日の『読売報知』には、ヒトラー、ムッソリニ礼讚の自著『世界の顔』についての、外人記者との対談で、「武士道は日本精神の精髄で、ナチス精神との間には多分の近似性がある」と、心ある全国民を戦慄させる断言をしている。ヨーロッパ、アメリカの政治・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
出典:青空文庫