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・・・地震で焼けた向島の梵雲庵は即ち椿岳の旧廬であるが、玄関の額も聯も自製なら、前栽の小笹の中へ板碑や塔婆を無造作に排置したのもまた椿岳独特の工風であった。この小房の縁に踞して前栽に対する時は誰でも一種特異の気分が湧く。就中椿岳が常住起居した四畳・・・
内田魯庵
「淡島椿岳」
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・・・ただ人々の態度とおりおり聞こえる単語や、間投詞でおよその事件の推移を臆測し、そうして自分の頭の中の銀幕に自製のトーキー「東京の屋根の下」一巻を映写するのである。 それで「パリの屋根の下」の観客は、この東京の電車や四つ辻におけると同じよう・・・
寺田寅彦
「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」