・・・いや、人の好い藤左衛門の如きは、彼自身にとってこの話が興味あるように、内蔵助にとっても興味があるものと確信して疑わなかったのであろう。それでなければ、彼は、更に自身下の間へ赴いて、当日の当直だった細川家の家来、堀内伝右衛門を、わざわざこちら・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・彼は征服した敵地に乗り込んだ、無興味な一人の将校のような気持ちを感じた。それに引きかえて、父は一心不乱だった。監督に対してあらゆる質問を発しながら、帳簿の不備を詰って、自分で紙を取りあげて計算しなおしたりした。監督が算盤を取りあげて計算をし・・・ 有島武郎 「親子」
・・・ 同時にフレンチは興味を持って、向側の美しい娘を見ている。その容色がある男性的の感じを起すのである。あの鼠色の寐惚けたような目を見ては、今起きて出た、くちゃくちゃになった寝牀を想い浮べずにはいられない。あのジャケツの胸を見ては、あの下に・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・人の詩を読む興味もまったく失われた。眼を瞑ったようなつもりで生活というものの中へ深入りしていく気持は、時としてちょうど痒い腫物を自分でメスを執って切開するような快感を伴うこともあった。また時として登りかけた坂から、腰に縄をつけられて後ざまに・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・などいうだろうけれど、僕から見ればよくよくやむを得ぬという事情があるでもなく、二年も三年も妻子を郷国に置いて海外に悠遊し、旅情のさびしみなどはむしろ一種の興味としてもてあそんでいるのだ。それは何の苦もなくいわば余分の収入として得たるものとは・・・ 伊藤左千夫 「去年」
・・・ 椿岳の画の豪放洒脱にして伝統の画法を無視した偶像破壊は明治の初期の沈滞萎靡した画界の珍とする処だが、更にこの畸才を産んだ時代に遡って椿岳の一家及び環境を考うるのは明治の文化史上頗る興味がある。 加うるに椿岳の生涯は江戸の末李より明・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・これらの問題に興味を有せらるる諸君はじかに私についてお尋ねを願います。 * * * * 今、ここにお話しいたしましたデンマークの話は、私どもに何を教えますか。 第一に戦敗かならずしも不幸に・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ 生活に興味を失っている若い人々の中では、毎日うなだれて沈んでいるものもありましたが、一命を賭けても、幸福の世界を見いだしたいと思ったものもありました。そして、夏の日が海のかなたに傾いて無数のうろこ雲が美しく花弁のように空に散りかかった・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・その時の気持はせんさくしてみれば、ずいぶん複雑でしたが、しかし、今はもうその興味はありません。それに、複雑だからといって、べつに何の自慢にもならない。先を急ぎましょう。 さて、これからがこの話の眼目にはいるのですが、考えてみると、話・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・「小田のようなのは、つまり悪疾患者見たいなもので、それもある篤志な医師などに取っては多少の興味ある活物であるかも知れないが、吾々健全な一般人に取っては、寧ろ有害無益の人間なのだ。そんな人間の存在を助けているということは、社会生活という上から・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
出典:青空文庫