・・・したが、こんどは、いかなる武器をも持ってはならん、素手で殴ってもいかん、もっぱら優美に礼儀正しくこの世を送って行かなければならん、というまことに有りがたい御時勢になりまして、そのためにはまず詩歌管絃を興隆せしめ、以てすさみ切ったる人心を風雅・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・淫祠の興隆は時勢の力もこれを阻止することが出来ないと見える。 行手の右側に神社の屋根が樹木の間に見え、左側には真暗な水面を燈火の動き走っているのが見え出したので、車掌の知らせを待たずして、白髯橋のたもとに来たことがわかる。橋快から広い新・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・当時日本の資本主義は小規模ながら興隆期にさしかかっていて、日本の中産階級が経済能力を増してきていた頃、福沢諭吉がいうとおり、今日のブルジョア民法としての民法改正が行われ封建差別がとりはらわれたのならば、たしかに今のままの条文を適用されるよう・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・歴史のありのままの表現で語れば、日本のおくれた資本主義は、日清戦争から十年後に経たこの侵略戦争で再び中国の国土を血ぬらし殖民地化しながらその興隆期に入ったわけであった。ウラルの彼方風あれて、とオルガンに合わせて声高くうたっていた若い母に、そ・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・十九世紀は、その興隆する資本主義社会の可能性で、偉大な人間才能を開花させたのであったが、いまやそろそろ地球をみたす人間社会により広汎な人間性を解放する民主の形態が出来て、新しい世紀の本質的に一歩発展し前進した精華が輝きだそうとしている。真に・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 左翼の歴史が何故そのように急な興隆と急な退潮とを余儀なくされているかということについて、詳細にここで触れる必要のないことであろうと思うが、これ等の重大な歴史の相貌は悉く、日本がヨーロッパよりおくれて、而も独自な事情のもとに近代社会とし・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・福沢諭吉が提案した明治年代の日本における資本主義興隆期にはそれを行わず、半封建憲法・民法で押してきた。その結果、わたしたちの日常生活のあらゆる面と感情とが、古きものへのたたかいと同じ刹那に、帝国主義末期の現象であるさまざまの矛盾と衝突し、そ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・日本の明治以来の興隆期の文化は、夏目漱石でその頂点に達し同時に漱石の芸術には、今日の日本を予想せしめる顕著な内部的矛盾が示されている。 寺田氏の文化性というものも、日本のその時代の特色を多くもっていると思う。社会的な境遇から云っても、寺・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・明治初年から興隆期にかけてのごく短い期間は、日本のインテリゲンツィアも知的進歩性は摩擦少なく興隆する支配力と共にあり得たのであったが、現在では、真実の知性は社会的矛盾を観破し、帰趨を明らかにするが故に、知識人に対しても民衆に対しても、許可す・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・従って、文学批評の貧困が云われる時代に、文芸作品が文学の真の発展の意味で興隆しているという現象は、社会的にあったためしがない。プロレタリア文学を歴史の上に顧みて、或る人は今日では殆ど十年を経たあの時代には、作品そのものより批評、評論の活躍が・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
出典:青空文庫