・・・ 天人の舞楽、合天井の紫のなかば、古錦襴の天蓋の影に、黒塗に千羽鶴の蒔絵をした壇を据えて、紅白、一つおきに布を積んで、媚かしく堆い。皆新しい腹帯である。志して詣でた日に、折からその紅の時は女の児、白い時は男の児が産れると伝えて、順を乱す・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・ 管絃のプログラムが終ると、しばらくの休憩の後に舞楽が始まった。 一番目は「賀殿」というのであった。同じ衣装をつけた舞人が四人出て、同じような舞をまうのであるが、これもちょうど管弦楽と全く同じようにやはり一種の雰囲気を醸出する「運動・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 上記の夢を見てから一と月も後に博物館で伎楽舞楽能楽の面の展覧会があって見に行った。陳列品の中に獅子舞の獅子の面が二点あったが、その面に附いている水色に白く水玉を染出した布片に多分鬣を表わすためであろう、麻糸の束が一列に縫いつけてある。・・・ 寺田寅彦 「夢判断」
・・・「私はね、 あの火焔太鼓や箏なんかがどうしてもいいと思いますよ、 あの何となし好い色の叩いて見た――あい形をしたのをねえ、 美くしい稚子がその前に座って舞楽を奏した時代がしのばれますよ、 あの時代には御飯なんか喰べずとも・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・ 昨秋表慶館における伎楽面、舞楽面、能面等の展観を見られた方は、日本の面にいかに多くの傑作があるかを知っていられるであろう。自分の乏しい所見によれば、ギリシアの仮面はこれほど優れたものではない。それは単に王とか王妃とかの「役」を示すのみ・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫