・・・それなりに評価されていて、紫陽花には珍しい色合いの花が咲けば、その現象を自然のままに見て、これはマア紫陽花に数少い色合であることよ、という風に鑑賞されている。牝鹿がある時どんなに優しく、ある時どんなに猛くてもやはりそれなり牝鹿らしいと見るま・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
七月も一日二日で十日になる。今年も暑気はきびしいように思われる。年々のいろいろな七月、いろいろなあつさを思いかえすうち、不図明るい一つの絵提灯のような色合いでパリの七月十四日の夜が記憶に甦って来た。 一七八九年の七月十・・・ 宮本百合子 「十四日祭の夜」
・・・最もたくさん小説をよむ青年男女の心の内奥に立ち入ってみれば、今日の若い人々の心は決して四年前の若い人たちの心のままの色合いではない。人生は、複雑極るその切り口をいきなり若い人々の顔の面にさしつけている。旧来の戦争は文化の面を外見上からも萎縮・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・同じ甲にしても甲のその形、その色合いが、ぴたりと思う壺に嵌らなければ承知出来ない人。そしてそれは一郎の我儘というよりは、美的にも智的にも倫理的にも彼が到達しているところまで来ていない社会に対する嫌厭として、彼の身魂を削り、はたの者の常識に不・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・それにつながった運命の大づかみな色合いというものも、周囲としては略想像することが出来る。西洋に、あれは銀の匙を口に入れて生れて来た人というような表現のあるのもそこのところに触れているのだろうが、人間が男にしろ女にしろ、生えたところから自分で・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・の中に使われている言葉について、家の造作について、着物の色合について、一つの字引のようなものさえできているような研究がございます。けれども、日本の国家が文化政策の中で「源氏物語」をどんなに評価して来たかと考えると、意味深い面白さがあります。・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
服装に就いての趣味と云っても、私は着物の通人ではないから、あれがいいとか、こんな色合は悪いとかは云えない。要するに着ているそのひとに合っていればいい。種々変った型、色、等があって差し支えないということは、恰も同一の個性が人・・・ 宮本百合子 「二つの型」
・・・ 好子の良人は或る機械工場に勤めている技師であったが、この夫婦の生活の色合いは、例えば今も好子が、「そりゃ、居なくったってどうにか食べては行けるにしたって、ねえ」と自分の心持を云いあらわすようなところで、多喜子たちと違っているの・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・その他の作品にあった空気を思いおこし、つづいてこの頃の石坂氏の短篇にある空気を思い合わせたとき、この作者のこれまでの作品の世界の色合い、雰囲気と地方での生活というものとが、案外に深い血肉性で作用しあっているのではないかと感じられて来た。・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・ ところで、今日、大衆のどんな感情の色合いでラジオのニュース価値が増して来ているのであろうか。オリムピック。神風の快翔。いずれも大衆のラジオに対する親密さを増大させたに相異ない。だがオリムピックのニュース及びオリムピック東京招致前後の空・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
出典:青空文庫