・・・ 肉体の疲労が、こんな工合に色彩に対する感覚に作用し、われわれが頭で知っている色感と現実の感覚的反応との間にこんな分裂が生じるということを自分の体で味わったのは、私として生れて初めての経験であった。私は自分の異常な感覚を感じ観察しながら・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ 生きたモデルについて熱心な研究を続ける一方、若いケーテがこのベルリン時代にドイツのシムボリズムの画家として、その構想の奇抜なことや、色感が特別ロマンティックな点などで人々の注目をひいていたクリンガーの影響をも強く受けたことは注目される・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・西洋の女の服装が、ただけばけばしいばかりのものでないことは、灰色の美しい扱いかた、黒の微妙な調和の手法を、日本の近代人はかえって西欧の洗煉された色感から学んでいることを、女性は知っているのである。「日本的性格」の筆者が、近代の日本人が、日本・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・他の人が絵にも歌にもしていない色彩のとり合せや、日常瑣事の風情に眼をつけていて、色彩の感覚などは今日の洋画の色感でさえ瞠目させられるようなものもある。 清少納言はそういう人であったけれども、人間のいきさつのことに関しては案外にもろく当時・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
出典:青空文庫