・・・エーヴがあれだけリアルに描きつつ、そういうような点で母夫人の情熱の内奥に肉迫せず、あすこをどこやらシャンヌの絵を思いおこさせるような色調の箴言的一情景として描くにとどまっているところ、様々の感想を誘われる。作家としてのエーヴが持っている微妙・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・ 十月十四日夜 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 長野県上林温泉より〕 このエハガキに描かれているところは今は一面の段々の田で、稲が実り、背景の濃い杉山とつよい色調のコントラストです。多分この左手の方に一米十円をかけたという一万メート・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・来年中等学校へ入る子供たちはどんな試験をうけることになるのだろうかと思っている昨今の皆の感情も、予測のつかなさと不安定の感とその現象に対する一市民としての無力感とに於て、明らかな時代の感情の色調を帯びている。 あらゆるものが強い旋回の裡・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・そういうような立場、色調でプロレタリア文化・文学運動への参加と敗北との経験が作品化された。そして、こういう作家の態度は、当時の気流によって、その作家たちの正直さ、人間らしさ、詐りなさの発露という風にうけとられ、評価されたのである。 日本・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・いずれも緑、黄、朱、赤、と原色に近い強烈な色調で、桃山時代模様と称される華美、闊達な大模様が染められている。この着物をきて、さらにどんな帯をしめるのであろうかと思わずにいられない華やかさ強烈さである。ひところ、一反百円という女物の衣類は、ご・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・ダアウィンの境遇は謂わばよい意味でのお坊ちゃん風な色調がつよいのに反して、ファブルはコルシカ辺に教師をしたりして貧困と窮乏と闘いつつ、自分の科学への道を切りひらいて行っている。イギリス人とフランス人、特にドウデエなどがまざまざと特徴づけてい・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・程よく、斬新な色調の織物、宝石の警抜な意匠、複雑な歯車、神秘的なまで単純な電気器具、各々の専門に従って置きかえる。 それ等の窓々を渡って眺めて行く私共は、東京と云う都市に流れ込み、流れ去る趣味の一番新しい断面をいつも見ているようなもので・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・にしろそれぞれの作家の年来の特色を年来の色調のままに発揮したものであり、特に「春琴抄」は物語の様式をつかわれて、同じ耽美的の被虐性を描くにしても往年のこの作者が試みた描写での執拗な追究、創造は廃されている。 谷崎潤一郎がこの作品に触れて・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 湿気、火事の要心のため、洋風にし家具を全部背いくるように落付いた色調。足音のしない床。〔一九二六年九月〕 宮本百合子 「書斎の条件」
・・・此と云う思いつきもありませんけれども、置電燈丈で室内を照した時、そのシェードの色調によって、全体が、穏やかな、柔かい感じとなるものがよいでしょう。 寝室だけは、絶対に朝、明けないうちから戸外の日光が入らなくしとうございます。眩しくて眼の・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
出典:青空文庫