・・・ 二十歳代の青年期に蜃気楼のような希望の幻影を追いながら脇目もふらずに芸能の修得に勉めて来た人々の群が、三十前後に実世界の闘技場の埒内へ追い込まれ、そこで銘々のとるべきコースや位置が割り当てられる。競技の進行するに従って自然に優勝者と劣・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・男子の心は元禄武士の如くして其芸能は小吏の如くなる可しと。今この語法に従い女子に向て所望すれば、起居挙動の高尚優美にして多芸なるは御殿女中の如く、談笑遊戯の気軽にして無邪気なるは小児の如く、常に物理の思想を離れず常に経済法律の要を忘れず、深・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ あるいはたまたま豊に生活して多少の余財ある者もあるべしといえども、その財は、本人が教育上に授けられたる芸能を天下の殖産社会に活用して得たる財にはあらずして、幸に官途に用いられ、さしたる用もなけれども、きまりの俸給に衣食して、少々ずつそ・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・は洋学者に限るとして利用せられたるその趣は、皮細工に限りてえたに御用をこうむりたるの情に異ならざりしといえども、えたにても非人にても、生計の道にありつきたるは実に図らざりしことにして、偶然に我が所得の芸能をもって銭を得たるものなり。 こ・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・そしてその目的を遂げるために、財界の老錬家のような辣腕を揮って、巧みに自家の資産と芸能との遣繰をしている。昔は文士を bohm だなんと云ったものだが、今の流行にはもうそんな物は無い。文士や画家や彫塑家の寄合所になっていた、小さい酒店が幾つ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
出典:青空文庫