・・・ 菊枝は、硫黄ヶ島の若布のごとき襤褸蒲団にくるまって、抜綿の丸げたのを枕にしている、これさえじかづけであるのに、親仁が水でも吐したせいか、船へ上げられた時よりは髪がひっ潰れて、今もびっしょりで哀である、昨夜はこの雫の垂るる下で、死際の蟋・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・食料は米味噌、そのほかに若布切り干し塩ざかななどはぜいたくなほうで、罐詰などはほとんど持たない。野菜類は現場で得られるものは利用する。カラフトではいろいろな植物を片端から試験的に食ってみた人もある。渓流で小ざかなをつかみ取りにしたり、野獣を・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・ある朝女房は、玉王を背負うて磯の若布を拾いに出たが、赤児を岩の上にでも落としてはという心配から、砂の上に玉王をおろして、ひとりで若布拾いにかかった。そのすきに鷲が舞いおりて、玉王をさらって飛び去った。母親は「四万の倉の宝に代へて儲けたる子を・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫