・・・お前のような身のほど知らずのさもしい女ばかりいるから日本は苦戦するのだ。お前なんかは薄のろの馬鹿だから、日本は勝つとでも思っているんだろう。ばか、ばか。どだい、もうこの戦争は話にならねえのだ。ケツネと犬さ。くるくるっとまわって、ぱたりとたお・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・ * * 余が廿貫目の婆さんに降参して自転車責に遇ってより以来、大落五度小落はその数を知らず、或時は石垣にぶつかって向脛を擦りむき、或る時は立木に突き当って生爪を剥がす、その苦戦云うばかりなし、しかしてついに物にな・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・方寸の中には竊に必敗を期しながらも、武士道の為めに敢て一戦を試みたることなれば、幕臣また諸藩士中の佐幕党は氏を総督としてこれに随従し、すべてその命令に従て進退を共にし、北海の水戦、箱館の籠城、その決死苦戦の忠勇は天晴の振舞にして、日本魂の風・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 彼女は落着いた文章のうちに情熱をこめて、小国ながら勇敢なベルギーは容易にドイツ軍の通過を許さないだろうとフランス人はみな希望を持ち、苦戦は覚悟の上だけれどきっとうまくゆくだろうと信じていること、そして「ポーランドはドイツ軍に占領されま・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
出典:青空文庫