・・・……ぴたぴたと行るうちに、草臥れるから、稽古の時になまけるのに、催促をされない稽古棒を持出して、息杖につくのだそうで。……これで戻駕籠でも思出すか、善玉の櫂でも使えば殊勝だけれども、疼痛疼痛、「お京何をする。」……はずんで、脊骨……へ飛上る・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・それからまた今は導流柵なんぞで流して釣る流し釣もありますが、これもなかなか草臥れる釣であります。釣はどうも魚を獲ろうとする三昧になりますと、上品でもなく、遊びも苦しくなるようでございます。 そんな釣は古い時分にはなくて、澪の中だとか澪が・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・一年あまりも心の暗い旅をつづけて、諸国の町々や、港や、海岸や、それから知らない山道などを草臥れるほど歩き廻った足だ。貧しい母を養おうとして、僅かな銭取のために毎日二里ほどずつも東京の市街の中を歩いて通ったこともある足だ。兄や叔父の入った未決・・・ 島崎藤村 「足袋」
・・・ゴーリキイは聴き草臥れる。それにもかかわらず、彼にはその挑戦的な鋭い言葉が気に入った。それらの云われていることは「容易に簡単に、説得的な思想に編みこまれて行く。」ところが、突然読みての声が遮られ、暗い朦朧たる部屋の中は憤怒の声に満たされた。・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫