・・・あらゆる日本の隅々から、あらゆる日本の町々から、日本の人民の議論と、笑いと、真摯な物語りとやさしい心情の流露とが溢れて、荒廃した日本を沃土としなければならないのである。 日本は、このように小さい島である。けれども、南と北に弓なりに張られ・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・麻なぞ作って骨折るだけ損だと麻畑は荒廃にまかされた。 ソヴェトの工業はどこから必要な四七パーセントの国内的原料をとって来たらいいのか? 工場は完全に革命的労働者に管理されながら原料が足りない。軽工業生産品が出来ないから、したがって農民の・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・高見順という作家は「毅然たる荒廃」を主張しているそうですが、バーや女給やデカダンスの中では毅然たるものが発生しにくいし他に生活はないし、背骨が立たぬから説話体をこね上げたらし。解子さんなどこういう才能の跳梁に「私は小説を書いてゆけるかしら」・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・山によりわけて、健全なものときまった方のものは、どんな応用のしかたをしてもその健全さは変らないと、金剛石さえ焼ければ消えることのある現実を忘れたような解釈が、知らず識らず毎日の中に流れこんで、心の畑を荒廃に向けているようなことはないだろうか・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・現代文学の素質は戦後になってから戦時中の荒廃をとりもどすどころか、実名小説にまで低下して来た。一九三三年に石坂洋次郎が、左翼への戯画としてかいた「麦死なず」と、一九五〇年に三好十郎が書いた「ストリップ・ショウ・殺意」とを見くらべれば、現代文・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・帝国主義、ファシズムによって荒廃させられた東ヨーロッパの人民も民族の自立と人民生活の確立を方針として、人民民主主義の社会をつくりました。そして、一九五〇年は世界最大の人口をもつ中国が、中華人民共和国として発足しているという驚歎すべき事実によ・・・ 宮本百合子 「宋慶齢への手紙」
・・・学者の或る人は、女性の社会感覚がせまいことがかえって幸して、主観のうちにとらえられている主題を外界に煩わされずに――荒々しい社会性に妨げられずに一意専念自分の手に入った技巧でたどってゆくから、この文学荒廃の時期に、婦人作家は思いがけない花を・・・ 宮本百合子 「壺井栄作品集『暦』解説」
・・・しかしヨーロッパや東洋の荒廃した国々の誰がこの上にも戦禍を重ねたいと思っているでしょう。真実に求められているのは平和です。平和を可能にする世界の民主化の確立です。このことは、こんどの大戦後の世界に、民主主義婦人同盟ができて千百万人の婦人を組・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ 崇福寺は、黄檗宗の由緒ある寺だが、荒廃し、入口の処、白い築地の崩れた間を通って行くようになっている。龍宮造りの山門を潜り石段を登ると、風化作用によって一種趣のついた石欄がある。奥に、朱塗の唐門があり、鍵の手に大雄宝殿――本堂となってい・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・麦積山の創始の時代、すなわち五世紀から六世紀へかけての時代には、中央アジアはまだあまり荒廃せず、盛んな文化創造をやっていたはずである。従ってあの地方の諸都市に、ちょうどそのころガンダーラからアフガニスタンへかけて栄えていた塑像の技術が伝わっ・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫