・・・と筆を投じて憤りを示したほどであったが、当時は順逆乱れ、国民の自覚奮わず、世はおしなべて権勢と物益とに阿付し、追随しつつあった。荘園の争奪と、地頭の横暴とが最も顕著な時代相の徴候であった。 日蓮の父祖がすでに義しくして北条氏の奸譎のため・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・その一は軍職を罷めて、耕作地の経営に長じているという噂のあるおじさんのいる、スラヴ領の荘園に行って、農業を研究するのである。ポルジイはこれを承って、乱暴にも、「それでは肥料車の積載の修行をするのですな」と云った。その二は世界を一周して来いと・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
レーリー家の祖先は一六六〇年頃エセックス州のモルドン附近に若干の水車を所有して粉磨業を営んでいた。一七二〇年頃ターリングに新しく住家を求め、その後 Terling Place の荘園を買った。その邸宅はもとノリッチ僧正の宮・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ 藤原時代の経済は荘園制の上に立っていた。京都にいる貴族の所有地である荘園とそこの住民は荘園の主にまかされて、すべての生活必需品を現物で京都の貴族たちに収めなければならなかった。あらゆる貴重な織物もこうして荘園の女の努力からつくられた。・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ 藤原時代の栄華の土台をなした荘園制度――不在地主の経済均衡が崩れて、領地の直接の支配者をしていた地頭とか荘園の主とかいうものが土地争いを始めた。その争いに今ならば暴力団のような形でやとわれた武士が土地の豪族の勢力と結んで擡頭して来て不・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・その手紙の内容は、ある田舎の荘園で、女主人は病弱なので家政婦が家事取締りしている。その助手と鶏舎の監督をする健康な飽きっぽくない若い婦人を求めているのであった。ジェーンは、その手紙をくりかえしてよんで考える。この手紙には何一つ特別珍しいこと・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・ 藤原時代は、支配階級の経済の基礎は、荘園制度であった。藤原氏は今日いう不在地主で、各地の大荘園は、その土地に住む管理者によって管理されていた。が藤原末期になるにつれて荘園の管理者が収穫をごまかしたり、農民の疲弊が甚しくなったりして財源・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫