・・・水をすらすらと上るのは割合やさしいようですけれど、流れが煽って、こう、颯とせく、落口の巌角を刎ね越すのは苦艱らしい……しばらく見ていると、だんだんにみんな上った、一つ残ったのが、ああもう少し、もう一息という処で滝壺へ返って落ちるんです。そこ・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・ ゆるい、はけ水の小流の、一段ちょろちょろと落口を差覗いて、その翁の、また一息憩ろうた杖に寄って、私は言った。 翁は、頭なりに黄帽子を仰向け、髯のない円顔の、鼻の皺深く、すぐにむぐむぐと、日向に白い唇を動かして、「このの、私がい・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・で、竹の筧を山笹の根に掛けて、流の落口の外に、小さな滝を仕掛けてある。汲んで飲むものはこれを飲むがよし、視めるものは、観るがよし、すなわち清水の名聞が立つ。 径を挟んで、水に臨んだ一方は、人の小家の背戸畠で、大根も葱も植えた。竹のまばら・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・ 水の溜ってる面積は五、六町内に跨がってるほど広いのに、排水の落口というのは僅かに三か所、それが又、皆落口が小さくて、溝は七まがりと迂曲している。水の落ちるのは、干潮の間僅かの時間であるから、雨の強い時には、降った水の半分も落ちきらぬ内・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
出典:青空文庫