・・・曲は落梅風だったと思うが、――」「それぎりかい?」「それがすむとまた話をした。」「それから?」「それから急に眼がさめた。眼がさめて見るとさっきの通り、僕は舟の中に眠っている。艙の外は見渡す限り、茫々とした月夜の水ばかりだ。そ・・・ 芥川竜之介 「奇遇」
・・・父はわたくしが立止って顔の上に散りかかる落梅を見上げているのを顧み、いかにも満足したような面持で、古人の句らしいものを口ずさんで聞かされたが、しかしそれは聞き取れなかった。後年に至って、わたくしは大田南畝がその子淑を伴い御薬園の梅花を見て聯・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・ 藤村の『若菜集』引きつづいて翌三十一年の春出版された『一葉舟』『夏草』、第四詩集である『落梅集』などが、当時の若い人々の感情をうごかし捉えた力というものは、今日私達の想像以上のものがあったらしい。日露戦争の後、日本に自然主義文学の運動・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
出典:青空文庫