・・・私は何となく選挙の終った日、落選者の選挙演説会の立看板が未だに取り除かれずに立っている、あの皮肉な光景を想いだした。 標語の好きな政府は、二三日すると「一億総懺悔」という標語を、発表した。たしかに国民の誰もが、懺悔すべきにはちがいない。・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・それからずいぶん自分を買いかぶっているのですよ、ああ、こんな心の汚い私をモデルにしたりなんかして、先生の画は、きっと落選だ。美しいはずがないもの。いけないことだけれど、伊藤先生がばかに見えてしようがない。先生は、私の下着に、薔薇の花の刺繍の・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・これ老生の近辺に住む老画伯にして、三十年続けて官展に油画を搬入し、三十年続けて落選し、しかもその官展に反旗をひるがえす程の意気もなく、鞠躬如として審査の諸先生に松蕈などを贈るとかの噂も有之、その甲斐もなく三十年連続の落選という何の取りどころ・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・その次に七夕棚かなんかを出したら今度は見事に落選した。その後子規に会ったとき「あれはまずい、前のと別人のようだと不折が云っていた」と云われた。その後に冬木立の逆様に映った水面の絵を出したらそれは入選したが「あれはあまり凝り過ぎてると碧梧桐が・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・下院でタフト・ハートレー法に賛成した七十名の議員が落選し、上院で八名ほどの議員がおなじ理由で落選したことが、NHKの放送でも語られた。 アメリカ本国の人口比率では婦人が四十六万人少い。労働人口の二八パーセントを婦人が占めて、五百種類以上・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・といい、社会党は、落選代議士の公約であるという説明を与えている。婦人代議士は、私たち日本の婦人があらゆる場面で経験しているように、今や「婦人のことは婦人で」解決するためにも、日本の封建性と既成政党の腐敗とに対して、精力を傾けて闘わなければな・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・と、まことに鷹揚な首領の返事や「それは落選候補の公約であった」という名回答もありました。 日比谷の放送討論会などの席上では、大変賑やかに食糧事情対策が論ぜられます。野草のたべかたについての講義――云いかえれば、私たち日本の人間が、ど・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・これは普通の落選もある文展の方です。又散歩に出たらエハガキを買って来てお目にかけましょう。 十一月二十二日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 十一月二十二日 第二十信。 そちらからのお手紙を待っていたことや、小野・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・を読んでもらっていると、一八九二、三年頃「落選画家の展覧会」を開いた後でも、セザンヌがどんな扱いを受けていたか、ということがわかって驚かれます。絵具商のタンギイ爺さんというのがセザンヌ一派を熱愛して、たまにセザンヌの絵を求めてくる人があると・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 性格的にはベルニィ夫人と全く反対のカストリィ公爵夫人の気に入るために、バルザックは数県から王党派代議士として立候補し、いずれも落選した。所謂高貴な骨董趣味に溺れて莫大な蒐集をはじめたり、邸宅を構えようとしたり。総ては金のいることばかり・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫