・・・静かな雨が音もなく芝生に落ちて吸い込まれているのを見ていると、ほんとうに天界の甘露を含んだ一滴一滴を、数限りもない若芽が、その葉脈の一つ一つを歓喜に波打たせながら、息もつかずに飲み干しているような気がする。 雨に曇りに、午前に午後に芝生・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・芋の葉と形はよく似ているが葉脈があざやかな洋紅色に染められてその周囲に白い斑点が散布している。芋から見れば片輪者であり化け物であろうが人間が見るとやはり美しい。 ベコニア、レッキスの一種に、これが人間の顔なら焼けどの瘢痕かと思われるよう・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・ けれども、今私は、葉脈の太くなり落葉し始めた同じ桐の梢を仰ぎ、何を第一に感じるだろう。 空気だ。遮ぎるものなく、拘泥わるものなく、澄み輝く空気を感じる。 勿論、神経は、そこに未だ沢山の葉が房々と空を画っていることも、幹は太く、・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・直接音に関係のあるのは葉だろうと思うが、松の葉は緑の針のような形で、実際落葉樹の軟らかい葉には針のように突き刺すことができる。葉脈が縦に並んでいて、葉の裏には松の脂が出るらしい白い小さい点が細い白線のように見えている。実際強靭で、また虫に食・・・ 和辻哲郎 「松風の音」
出典:青空文庫