・・・では菊池寛の作品には、これらの割引を施した後にも、何か著しい特色が残っているか? 彼の価値を問う為には、まず此処に心を留むべきである。 何か著しい特色? ――世間は必ずわたしと共に、幾多の特色を数え得るであろう。彼の構想力、彼の性格解剖・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・只言外に否定している、――これはこの『それだけだ』と言う言葉の最も著しい特色であります。顕にして晦、肯定にして否定とは正に『それだけだ』の謂でありましょう。「この『半肯定論法』は『全否定論法』或は『木に縁って魚を求むる論法』よりも信用を・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・思想家としてのマルクスの功績は、マルクス同様資本王国の建設に成る大学でも卒業した階級の人々が翫味して自分たちの立場に対して観念の眼を閉じるためであるという点において最も著しいものだ。第四階級者はかかるものの存在なしにでも進むところに進んで行・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・が、形は著しいものではない、胸をくしゃくしゃと折って、坊主頭を、がく、と俯向けて唄うので、頸を抽いた転軫に掛る手つきは、鬼が角を弾くと言わば厳めしい、むしろ黒猫が居て顔を洗うというのに適する。――なから舞いたりしに、御輿の岳、愛宕山・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・これが対人関係における日本的性格の一つの著しい特徴であろう。したがっていったん、その結合が破れたときにはその悲傷もまた深刻である。万葉集の巻の三には大津皇子が死を賜わって磐余の池にて自害されたとき、妃山辺の皇女が流涕悲泣して直ちに跡を追い、・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・ある婦人や、科学者、女医等の科学的才能ある婦人、また社会批評家、婦人運動実行家等の社会的特殊才能ある婦人はいうまでもなく、教員、記者、技術家、工芸家、飛行家、タイピストの知能的職業方面への婦人の進出は著しいものであるが、これらは将来理想的社・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・ モスコフスキーは四十年前の婦人と今の婦人との著しい相違を考えると、知識の普及に従って追々は婦人の天才も輩出するようになりはしないか、と云うと、「貴方は予言が御好きのようだが、しかしその期待は少し根拠が薄弱だと思う。単に素養が増し智・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・しかし科学者としては事がらの可能不可能や蓋然性の多少を既成科学の系統に照らして妥当に判断を下すほかはないので、もし万に一つその判断がはずれれば、それは真に新しい発見であって科学はそのために著しい進歩をする。しかしそのような場合があっても、判・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・これが東京市内に限らず全国的であることを思うといっそう著しいことと思われて来るのである。これだけの著しい現象の直接間接の効果が日本国民全体の心理と仕事上になんらかの形で現われて来ない訳にはいかないに相違ない。その結果の善悪にかかわらず実に恐・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・この現象は古い時代のものほどに著しいような気がする。ただ写楽の人物の顔の輪郭だけは、よほど写実的に進歩した複雑さを示していると同時に、純粋な線の音楽としての美しさを傷つける恐れがあるのを、巧妙に救助しているのは彼の絵に現われる手や指の曲線で・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
出典:青空文庫