・・・その著名なるものをあぐれば、クライスト、マインレンデル、ワイニンゲル…… 問 君の交友は自殺者のみなりや? 答 必ずしもしかりとせず。自殺を弁護せるモンテェニュのごときは予が畏友の一人なり。ただ予は自殺せざりし厭世主義者、――ショオ・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・ 歴史上、最も著名な実例の一つは、恐らくカテリナ女帝に現われたものでございましょう。それからまた、ゲエテに現れた現象も、やはりそれに劣らず著名なものでございます。が、これらは、余り人口に膾炙しすぎて居りますから、ここにはわざと申上げませ・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・牛島の弘福寺といえば鉄牛禅師の開基であって、白金の瑞聖寺と聯んで江戸に二つしかない黄蘗風の仏殿として江戸時代から著名であった。この向島名物の一つに数えられた大伽藍が松雲和尚の刻んだ捻華微笑の本尊や鉄牛血書の経巻やその他の寺宝と共に尽く灰とな・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・この絢尭斎というは文雅風流を以て聞えた著名の殿様であったが、頗る頑固な旧弊人で、洋医の薬が大嫌いで毎日持薬に漢方薬を用いていた。この煎薬を調進するのが緑雨のお父さんの役目で、そのための薬味箪笥が自宅に備えてあった。その薬味箪笥を置いた六畳敷・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・これがまた定って当時の留書とかお触とか、でなければ大衆物即ち何とか実録や著名の戯作の抜写しであった。無論ドコの貸本屋にも有る珍らしくないものであったが、ただ本の価を倹約するばかりでなく、一つはそれが趣味であったのだ。私の外曾祖父の家にもこの・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・当時私はスペンサーの文体論を初め二、三の著名な文章説を読んでいたが、こういう意味の文章論をいわゆる小説家の口から聴こうとは夢にも思っていなかった。問題の提出者たる古典科出身のYは不可解な顔をして何ともいわなかった。 ドストエフスキーを読・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 機一発、伊公の著名なる保安条例が青天霹靂の如く発布された。危険と目指れた数十名の志士論客は三日の間に帝都を去るべく厳命された。明治の酷吏伝の第一頁を飾るべき時の警視総監三島通庸は遺憾なく鉄腕を発揮して蟻の這う隙間もないまでに厳戒し、帝・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ お前はしきりに首をひねっていたが、間もなく、川那子メジシンの広告から全快写真の姿が消え、代って歴史上の英雄豪傑をはじめ、現代の政治家、実業家、文士、著名の俳優、芸者等、凡ゆる階級の代表的人物や、代表的時事問題の誹毀讒謗的文章があらわれ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・の出現を見るにいたったわけである。著名の学者の筆になる「蠅を憎むの辞」が現代的科学的修辞に飾られて、しばしばジャーナリズムをにぎわした。 しかし蠅を取りつくすことはほとんど不可能に近いばかりでなく、これを絶滅すると同時に、蛆もこの世界か・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・たくさんの邦産映画の中には相当なものもあるかもしれないが、自分の見た範囲では遺憾ながらどうひいき目に見ても欧米の著名な映画に比肩しうるようなものはきわめてまれなようである。 ロシア崇拝の映画人が神様のようにかつぎ上げているかのエイゼンシ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫