・・・年紀の頃は十九か二十歳、色は透通る程白く、鼻筋の通りました、窶れても下脹な、見るからに風の障るさえ痛々しい、葛の葉のうらみがちなるその風情。 八 高が気病と聞いたものが、思いの外のお雪の様子、小宮山はまず哀れさが・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・私は尚も言葉をつづけて、私、考えますに葛の葉の如く、この雪女郎のお嫁が懐妊し、そのお腹をいためて生んだ子があったとしたなら、そうして子供が成長して、雪の降る季節になれば、雪の野山、母をあこがれ歩くものとしたなら、この物語、世界の人、ことごと・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 次の幕は「葛の葉の子別れ」であった。畜生の人間的恩愛を描いたこの悲劇の不思議な世界の不思議な雰囲気も、やはり役者が人形であるがためにかえっていっそう濃厚になり現実的になるからおもしろいのである。 最後に「爆弾三勇士」があったが、こ・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・はきと分らねど白地に葛の葉を一面に崩して染め抜きたる浴衣の襟をここぞと正せば、暖かき大理石にて刻めるごとき頸筋が際立ちて男の心を惹く。「そのまま、そのまま、そのままが名画じゃ」と一人が云うと「動くと画が崩れます」と一人が注意する。・・・ 夏目漱石 「一夜」
・・・ごとがましき袷かな一八やしゃが父に似てしゃがの花夏山や神の名はいさしらにぎて藻の花やかたわれからの月もすむ忘るなよ程は雲助時鳥角文字のいざ月もよし牛祭又嘘を月夜に釜の時雨哉葛の葉のうらみ顔なる細雨かな頭巾著て・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・の入口の上に、今葛の葉が一房垂れている。野生のなでしこ、山百合が咲いている。フダーヤはその岩屋に入って、凄く響く声の反響をききながら、「大塔宮が殺される時の声もこんなに響いたんだろうな」といった。隅に、巨大な蜘蛛が巣をかけていた。そ・・・ 宮本百合子 「この夏」
出典:青空文庫