・・・ 氏はまた蒲公英少しと、蕗の晩れ出の芽とを採ってくれた。双方共に苦いが、蕗の芽は特に苦い。しかしいずれもごく少許を味噌と共に味わえば、酒客好みのものであった。 困ったのは自分が何か採ろうと思っても自分の眼に何も入らなかったことであっ・・・ 幸田露伴 「野道」
・・・「さっきね」と、藤さんは袂へ手を入れて火鉢の方へ来る。「これごらんなさい」と、袂の紅絹裏の間から取りだしたのは、茎の長い一輪の白い花である。「このごろこんな花が」「蒲公英ですか」と手に取る。「どこで目っけたんです? たっ・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・草は菫となり、蒲公英となり、桜草となり、木は梅となり、桃となり、松となり、檜となり、動物は牛、馬、猿、犬、人間は士、農、工、商、あるいは老、若、男、女、もしくは貴、賤、長、幼、賢、愚、正、邪、いくらでも分岐して来ます。現に今日でも植物学者の・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ある時は野へ出て蒲公英の蕊を吹きくらをした。花が散ってあとに残る、むく毛を束ねた様に透明な球をとってふっと吹く。残った種の数でうらないをする。思う事が成るかならぬかと云いながらクララが一吹きふくと種の数が一つ足りないので思う事が成らぬと云う・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
出典:青空文庫