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・・・ あのあたり、あの空…… と思うのに――雲はなくて、蓮田、水田、畠を掛けて、むくむくと列を造る、あの雲の峰は、海から湧いて地平線上を押廻す。 冷い酢の香が芬と立つと、瓜、李の躍る底から、心太が三ツ四ツ、むくむくと泳ぎ出す。 ・・・
泉鏡花
「瓜の涙」
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・・・「大宮からよっぽど先でござんしょうか」「大宮から蓮田、白岡です」「そうでございますか」 そして、女性的本能の残留らしい媚をふくんだ調子で婆さんはつづけた。「始めてだもんですから。どうも一向勝手が判りませんでねえ――あのう・・・
宮本百合子
「一隅」