・・・この話は勿論話自身も薄気味悪いのに違いなかった。しかし彼の肖像画はどこも完全に描いてあるものの、口髭だけはなぜかぼんやりしていた。僕は光線の加減かと思い、この一枚のコンテ画をいろいろの位置から眺めるようにした。「何をしているの?」「・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・夫婦がかりで薄気味悪いほどサーヴィスをよくしたが、人気が悪いのか新店のためか、その日は十五人客が来ただけで、それもほとんど替刃ばかり、売り上げは〆めて二円にも足らなかった。 客足がさっぱりつかず、ジレットの一つも出るのは良い方で、大抵は・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・なんだか、薄気味悪いことになりました。その小説の描写が、怪しからぬくらいに直截である場合、人は感服と共に、一種不快な疑惑を抱くものであります。うま過ぎる。淫する。神を冒す。いろいろの言葉があります。描写に対する疑惑は、やがて、その的確すぎる・・・ 太宰治 「女の決闘」
出典:青空文庫