・・・――くどいようだが――楊貴妃の上へ押並んで振向いて、「二十だ……鼬だ……べべべべ、べい――」 四 ここに、第九師団衛戍病院の白い分院がある。――薬師寺、万松園、春日山などと共に、療養院は、山代の名勝に入ってい・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・ 私の手携げ袋の中には、奈良の薬師寺で拾った瓦や、東大寺で買った鐘や、いろ/\のものが入っているので、手が痛くなって、其処の松並木の下の草原で暫らく休んだ。 遙かに、紀伊の山々が望まれた。海の上を行って、五十里はあれど百里はあるまい・・・ 小川未明 「舞子より須磨へ」
・・・ ところが政元は病気を時したので、この前の病気の時、政元一家の内うちうちの人だけで相談して、阿波の守護細川慈雲院の孫、細川讃岐守之勝の子息が器量骨柄も宜しいというので、摂州の守護代薬師寺与一を使者にして養子にする契約をしたのであった。・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ また奈良の薬師寺の三尊について語ったとき、先生はいきなり、「あの像をまだ見ない人があるなら私は心からその人をうらやむ」というようなことを言い出した。そうして呆然に取られている我々に、あの三尊を初めて見た時の感銘を語って聞かせた。特に先・・・ 和辻哲郎 「岡倉先生の思い出」
出典:青空文庫