・・・然れども、之を以て直ちに老生の武術に於ける才能の貧困を云々するは早計にて、嘗つて誰か、ただ一日の修行にて武術の蘊奥を極め得たる。思う念力、岩をもとおすためしも有之、あたかも、太原の一男子自ら顧るに庸且つ鄙たりと雖も、たゆまざる努力を用いて必・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・もし全般に通じようとすれば勢い浅薄に流れ、もし蘊奥を極めんとすれば勢い全般の事は分らずにしまわなければならぬような有様である。 このような時代においてもしある科学の全般にわたって間口も広く奥行も深く該博深遠な知識をもった学者があって、そ・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・面壁九年能く道徳の蘊奥を究むべしといえども、たとえ面壁九万年に及ぶも蒸気の発明はとても期すべからざるなり。 世に教育なるものの必要なるは、すなわちこのゆえにして、人学ばざれば智なきがゆえに、学校を建ててこれを教え、これを育するの趣向なり・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・徳川時代の歌人がわずかに客観的趣味を解しながら深くその蘊奥に入るあたわざりしは、第一に「新言語新材料を入るるべからず」という従来の規定を脱却するあたわざりしに因る。曙覧はまずこの第一の門戸を破りて、歌界改革の一歩を進めたり。〔『日本』明・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫