・・・ 学会などにおけるディスカッション振りにも、やはり優れた頭脳と蘊蓄を示して、常に「最後の言葉」を話す人であったそうである。 学生の卒業論文などについても指導甚だ懇切であった。初めにはいきなり酷く叱られて慄え上がるが、教えを受けて引下・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ 古田中正彦氏は、文学への愛好が深く、やはり短歌に蘊蓄が浅くない上、著書も持って居られる。長女の峰子さんも、歌のことでは夫人のよい伴侶らしかった。 私が短歌については知ることが少なかったことも、お話の出なかった一つの原因であろうと思・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・言葉をかえて云えば、やむを得ない応急的なあわただしさの反面に、日本の文化はもっともっと落着いて、蘊蓄を深く、根底から確乎とした自身の発展的推進力を高めて行かなければ、真に世界文化の水準に到達することは困難である、という自戒を感じているのでは・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・法律学校を出たきりのバルザックばかりは、他の作家たちのようにそれにたよって現実から遁走するためのどんなギリシャ芸術の蘊蓄も古文書に対する教養も持合わせていず、天性の豊富な想像力が活躍するとなれば、それは必ず極く現実的な内容しか持てなかったと・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・そして、時節柄いろいろの形で特種の工夫がされているのであるが、いわゆる現地報告として、相当の蘊蓄をもってその人なりの視点から書かれているのは『改造』山本実彦氏の「戦乱北支を行く」である。同じ『改造』に吉川英治氏の「戦禍の北支雑感」がある。こ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・を書いたゴーリキイ自身を、そして、その晩年に於て、新しい人類的見地に立つリアリズムの理解によって六十八年の全蘊蓄の価値を傾けて民衆の歓びとなったマクシム・ゴーリキイの終曲の美しさに思い到らせるのである。「結構さん」と、泣くことのきらいな・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・明治時代は、学校で学問をすることと、社会に出てからその蘊蓄を傾けて立派な人間的活動をすることとは、少くとも或る程度までは一致して考えることが出来ていた。現在はそうでない。いかに生きるべきかという問題の内容は非常に複雑であって、毎日は一応学生・・・ 宮本百合子 「若き時代の道」
出典:青空文庫