・・・甲板へ上がってボーイに上等はあいているかと問うとあいているとの事、荷物と帽を投げ込んで浜を見ると、今端艇にのり移ったマントの一行五、六人、さきの蝶々髷の連中とサヨーナラといっているのが聞える。蚕種検査の御役人が帰るのだなと合点がいった。宿の・・・ 寺田寅彦 「高知がえり」
・・・みんなは、蚕種取締所設置の運動のことやなにか、いろいろ話し合いましたが、こころの中では誰もみんな、山男がほんとうにやって来るかどうかを、大へん心配していました。もし山男が来なかったら、仕方ないからみんなの懇親会ということにしようと、めいめい・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・野性的の感○蚕種寒心太製造 隣室の話 男、中年以上姉さんという女 もっと若い女、 芸者でもなし。品のわるい話。工女であった。古女「こんだあ、上野公園や日比谷公園へつれてってくれないかね。」古・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
出典:青空文庫