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・・・ 大井川の水涸れ/\にして蛇籠に草離々たる、越すに越されざりし「朝貌日記」何とかの段は更なり、雲助とかの肩によって渡る御侍、磧に錫杖立てて歌よむ行脚など廻り燈籠のように眼前に浮ぶ心地せらる。街道の並木の松さすがに昔の名残を止むれども道脇・・・
寺田寅彦
「東上記」
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・・・ 酒匂河の蛇籠に入れる石をひろいに来て居る老人だの小供だのの影が、ポツリポツリと見える。 病人でもなくて、遊びに来るものはめったにない。 それだけ静かである。 自然で、俗気のみじんもない、どうとも云われずどっしりと人にせまっ・・・
宮本百合子
「冬の海」