・・・それに、発砲を禁じられとったんで、ただ土くれや唐黍の焼け残りをたよりに、弾丸を避けながら進んで行たんやが、僕が黍の根を引き起し、それを堤としてからだを横たえた時、まア、安心と思たんが悪かったんであろ、速射砲弾の破裂に何ともかとも云えん恐ろし・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・絶対安静の病床で一カ月も米杉の板を張った天井ばかりを眺めて暮した後、やっと起きて坐れるようになって、窓から小高い山の新芽がのびた松や団栗や、段々畑の唐黍の青い葉を見るとそれが恐しく美しく見える。雨にぬれた弁天島という島や、黒みかゝった海や、・・・ 黒島伝治 「海賊と遍路」
・・・という訳名であるが、旱魃で水をほしがっているあの画面の植物は自分にはどうも黍か唐黍かとしか思われなかった。 主人公の「野性的好男子」もわれらのような旧時代のものにはどうもあまり好感の持てないタイプである。しかし、とにかくこうした映画で日・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・畑のめぐりには蜀黍をぎっしり蒔いた。麦が刈られてからは日は暑くなる。西瓜の嫩葉は赤蠅が来て甞めてしまうので太十は畑へつききりにしてそれを防いだ。敏捷な赤蠅はけはいを覗って飛び去るので容易に捕ることが出来ない。太十は朝まだ草葉の露のあるうちに・・・ 長塚節 「太十と其犬」
出典:青空文庫