・・・乗るも勤めなり、家内に病人あるも勤めの身なればこれを捨てて出勤せざるを得ず、終日の来客も随分家内の煩雑なれども、勤めの家なれば止むことを得ず、酒を飲むも勤めの身、不養生も勤めの身、なお甚だしきは、偽を行い虚を言うも勤めの箇条に入ることあり。・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・除、比例等の算術にいたり、句読は、府県名・国尽・翻訳の地理・窮理書・経済書の初歩等を授け、あるいは訳書の不足する所はしばらく漢書をもって補い、習字・算術・句読・暗誦、おのおの等を分ち、毎月、吟味の法を行い、春秋二度の大試業には、教員はもちろ・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・その生るるや、束縛せらるることなく、天より付与せられたる自主・自由の通義は、売るべからずまた買うべからず、人としてその行いを正しゅうし、他の妨をなすに非ざれば」云々と。 春来、国事多端、ついに干戈を動かすにいたり、帷幄の士は内に焦慮し、・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・口に正理を唱るも、身の行い鄙劣なれば、その子は父母の言語を教とせずしてその行状を見慣うものなり。いわんや父母の言行ともに不正なるをや。いかでその子の人たるを望むべき。孤子よりもなお不幸というべし。 あるいは父母の性質正直にして、子を愛す・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・この事柄は敢て議論ではない、吾等の大教師にして仏の化身たる親鸞僧正がまのあたり肉食を行い爾来わが本願寺は代々これを行っている。日本信者の形容を以てすれば一つの壺の水を他の一つの壺に移すが如くに肉食を継承しているのである。次にまた仏教の創設者・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ けれども、それを知らないと云う事が、芳子さんの毎日の行いにどんな関係を持つでしょう。芳子さんは、何と云っても芳子さんである筈です。芳子さんは、相変らず、一生懸命に勉強しました。お気の毒な政子さんには、自分の出来る丈の親切をし、お友達の・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・風変りな俊寛は、鬼界ヶ島で鬼と化した謡曲文学の観念を吹きはらって、勇壮に鰤釣りを行い、耕作を行い、土人の娘を妻として子供を五人生み、有王を驚殺するのである。日本の封建の伝統が近代日本の心にも伝えている生命への蔑視を、これらの作品はつよく否定・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ 欲しがって居たのにやらなかった、私のその時の行いをどれほど今となって悔いて居るだろう。 けれ共、甲斐のない事になって仕舞ったのである。 小さい飯事道具を一そろいそれも人形のわきに納められた。娘にならずに逝った幼児は大きく育って・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・有名な中島湘煙が十九歳で政談演説を行い、婦人政治家として全国遊説をし、岡山に女子親睦会というのが出来た。成田梅子は、仙台に女子自由党を組織し、男女同権という声は、稚拙ながら新興の意気をもって、日本全国に響いたのであった。 ところが、一八・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・さてもあのまま鎌倉までもしは追うて出で行いたか。いかに武芸をひとわたりは心得たとて……この血腥い世の中に……ただの女の一人身で……ただの少女の一人身で……夜をもいとわず一人身で……」 思えば憎いようで、可哀そうなようで、また悲しいようで・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫