・・・しかし、若し、世界が現状のまゝの行程を辿るかぎり、いかに巧言令辞の軍縮会議が幾たび催されたればとて、急転直下の運命から免れべくもない。こう思って、何も知らずに、無心に遊びつゝある子供等の顔を見る時、覚えず慄然たらざるを得ないのであります。・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・スに行きあいて堪え難き渇きと死ぬばかりなる疲労を癒する由あれど、人生まれ落ちての旅路にはただ一度、恋ちょう真清水をくみ得てしばしは永久の天を夢むといえども、この夢はさめやすくさむれば、またそのさびしき行程にのぼらざるを得ず、かくて小暗き墓の・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・この日行程二十四里なり。大町なんど相応の賑いなり。 十八日、朝霧いと深し。未明狐禅寺に到り、岩手丸にて北上を下る。両岸景色おもしろし。いわゆる一山飛で一山来るとも云うべき景にて、眼忙しく心ひまなく、句も詩もなきも口惜しく、淀の川下りの弥・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・列車は四百五十哩の行程を前にしていきりたち、プラットフオムは色めき渡った。私の胸には、もはや他人の身の上まで思いやるような、そんな余裕がなかったので、テツさんを慰めるのに「災難」という無責任な言葉を使ったりした。しかし、のろまな妻は列車の横・・・ 太宰治 「列車」
・・・アメリカの能率のよい生産行程では、一つの型紙でもって電気鋏で一度に数百枚の切れ地を切って電気ミシンで縫う。 特に裁縫ではいろいろ細工がある。衣料関係の労働は、こういう大量の既製品製作ばかりではない。金モール細工をする人、刺繍をする人、さ・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・私たちの世紀は、資本主義的な民主主義、社会主義的な民主主義、そして、おくれながらもつよく翼を羽ばたいて歴史の二行程を同時に推進する必然におかれている中国や日本などの新民主主義と、この三つの民主主義の進行が世紀の実質をなしているのであるから。・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・緩くり一時間半の行程。皆塩原の風景には好い記憶をもっていたのでわざわざ出かけたのであったが、今度は那須と比較して異った感じを受けた。箒川を見晴らせるところというので清琴楼に一泊した。いい月夜で、川では河鹿が鳴く、山が黒く迫って、瀬の音が淙々・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・ 印刷行程の困難な事情に応じて、出版・印刷関係の勤労者が、最低生活を守るために闘った。物価の高騰と歩調を合せないまでも、いく分ましの賃銀の条件になり、婦人は生理休暇ももてるようになった。 けれども、本当に自主的な自覚のある勤労者とし・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
出典:青空文庫