・・・ 十七、陸海軍の術語に明き事。少年時代軍人になる志望ありし由。 十八、正直なる事。嘘を云わぬと云う意味にあらず。稀に嘘を云うともその為反って正直な所がわかるような嘘を云う意味。 芥川竜之介 「彼の長所十八」
・・・とりわけ、地名や人名または切支丹の教法上の術語などには、きっとなやまされるであろうと考えた。白石は、江戸小日向にある切支丹屋敷から蛮語に関する文献を取り寄せて、下調べをした。 シロオテは、程なく江戸に到着して切支丹屋敷にはいった。十一月・・・ 太宰治 「地球図」
・・・日本語もこういうぐあいに活用させる人ばかりだったら、字を見なければわからないあるいは字を見ても読めないような生硬な術語などをやめてしまって、もう少し親しみのあるものに代える事ができそうである。国語調査会とかいうものでこういういい言葉を調べ上・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・と同義であって術語のヴェロシティーと同じではないのである。例えばまた「のろい週期」などという言葉も平気で使うが「長い週期」というよりも日常会話にはこの方が実感があるから自然にそんな用例が出来るのであろうと思われる。「のろい振動の長い週期」を・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・というような言葉は、日本人にとっては決して単なる気象学上の術語ではなくて、それぞれ莫大な空間と時間との間に広がる無限の事象とそれにつながる人間の肉体ならびに精神の活動の種々相を極度に圧縮し、煎じ詰めたエッセンスである。またそれらの言葉を耳に・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・わせ、モンタージュを行なって、そうしてそこに新しい世界を創造するのであって、その芸術の技法には相生相剋の配合も、テーゼ、アンチテーゼの総合ももちろん暗黙の間に了解されているが、ただそれがなんら哲学的な術語で記述されてはいないのである。 ・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・そうしてこの二つの言葉は文芸界専有の術語でその他の方面には全く融通の利かないものであるかのごとく取扱われております。ところが私はこれからこの二つの言葉の意味性質を極めて簡略に述べて、そうしてそれを前申上げた昔と今の道徳に結びつけて両方を綜合・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・そして感情するためには、ニイチェの言葉の中から、すべての省略された意味、即ち彼の慣用する音楽術語で言ふ Con motoの部分を、自分で直感的に会得せねばならない。そして此処に、彼の理解への最も困難な鍵がある。たしかに人の言ふ如く、カントの・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・く劇場にさえ入れなかったような労働者の前へ、今は顛倒した地位で自分達が立たなければならなくなった彼等が、素朴な管理者が閉口するように、報告を出来るだけ衒学的な文句で書いたり、必要もないのに、馬鹿叮寧な術語をしかもドイツ語で並べたてたりするこ・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・文学批評と云えば、術語が並んで、むずかしい文句で、小説ならばよめる労働者でも理屈の方はマアと後へまわすようなものが多い。 その上、批評の専門家はこれまで、農民の文学に対する理解力を認めなさすぎた。やっと文盲撲滅が行われて十一二年目のソヴ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫