・・・少ないがこの留学費全体を投じて衣食住の方へ廻せば我輩といえども最少しは楽な生活ができるのさ。それは国にいる時分の体面を保つ事は覚束ないが(国にいれば高等官一等から五つ下へ勘定すれば直ぐ僕の番へ巡とにかくこれよりもさっぱりした家へ這入れる。然・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・然らば則ち夫婦家に居るは其苦楽を共にするの契約なるが故に、一家貧にして衣食住も不如意なれば固より歌舞伎音曲などの沙汰に及ぶ可らず、夫婦辛苦して生計にのみ勉む可きなれども、其勉強の結果として多少の産を成したらんには、平生の苦労鬱散の為めに夫婦・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・第八、経済学 人間衣食住の需用を論じこれを製しこれを易え、これを集め、これを散じ、人の知識礼義を進めて需用の物を饒にする所以を説き、これを大にすれば一国政府の出納、これを小にすれば一家日常の生計、自然の定則にしたがう者は富を・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・第二に活計の道、渡世の法を求めて衣食住に不自由なく生涯を安全に送ること。第三に子供を養育して一人前の男女となし、二代目の世の中にては、その子の父母となるに差支なきように仕込むことなり。第四に人々相集まりて一国一社会を成し、互いに公利を謀り共・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・ 今日にいたるまで、余が衣食住に苦しまずして独立勝手次第の生活をなし、なおその上に私塾維持のためにも、社員とともに多少の金を費したるその出処を尋ぬれば、商売に儲けたるに非ず、月給に貰うたるに非ず、いわんや祖先の遺産においてをや。本来無一・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・また平生の衣食住についても、おのおの好悪する所なきを期すべからずといえども、互いに忍んでその好悪に従わざるべからず。またあるいは一方の病気の如き、固より他の一方に痛痒なけれども、あたかもその病苦を自分の身に引受くるが如くして、力のあらん限り・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・〔『日本』明治三十二年三月二十二日〕 曙覧が清貧の境涯はほぼこの文に見えたるも、彼の衣食住の有様、すなわち生活の程度いかんはその歌によって一層詳に知ることを得べし。その歌左に人にかさかしたりけるに久しうかへさざりければ、・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・行けない学生は何のために学校にゆけないかを考えてみれば、職場の人のおかれている衣食住の困難、そこからおこる人間性の歪み、それと闘ってゆく人間らしい健気さでは、学生も職場の人もまったく同じ条件のうえにおかれている。そしてそこには男と女の勤労者・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ 本当にわたくしたちが社会で働き得ること、その働きによって、衣食住が保障されること、こういう生存の必要条件が合理的に保証されていなければ、最も長い時間裁縫工場で働かなければならない婦人が、着るに着られず生活しなければならない矛盾は解決さ・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ 第二は、可なり朦朧とした Creature と Beings の説明で、第三から人体、衣食住に関する常識以下、博物、地文、産業、経済、物理、生理にまできっちり七行ずつ、触れている。そして最後は上帝への礼拝で終っている。 ほんの七行・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
出典:青空文庫