・・・ さてここに注目されていることは、不幸なめぐりあわせに陥った被害者が、その家庭で継娘という立場にあったことである。あの記事をよんで、日本中には少くない同じ立場の若い娘たちが、人知れずどんな恐怖にうたれたであろう。昔から可哀そうな少女のお・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・ 欧州大戦と、この大戦では被害という程の経験をしなかった日本が、大戦に当って好景気時代にめぐり会い、社会経済に一段と膨脹を示したことは、直接にはジャーナリズムの規模の飛躍的な拡大となり、一方に円本時代を現出した。そして当時の既成作家の大・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・このことと団体に被った被害の甚大であったこと、他の一面には若いその運動が指導方針の中に持っていた未熟なものとが絡み合って、プロレタリア文学者達の間に分裂と動揺とを来した。折から、かつてはプロレタリア文学運動の主唱者の一人であった林房雄氏等か・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・日本の自分たちの身の上に蒙った生活破壊のおそろしい被害は、中国の婦人たちの上にどんな荒々しさでふりかかっていたかということを知らされた。フィリッピンその他の諸民族が受けた惨虐は、日本にこれほどどっさりの未亡人をこしらえた、その軍事権力の仕業・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・ 大局からこう考えてくると、現代日本の悲劇である殺人や強盗において、人民たるわれわれは、加害者も、日本の軍閥の被害者であるということがわかり、いってみれば被害者同士だといえる。しかし何んでもない動機で、チョット物がとりたくて人の首をしめ・・・ 宮本百合子 「戦争でこわされた人間性」
・・・二つの大戦は、その一つごとに戦争の被害を拡大させて来た。第二次大戦では、アフリカの住民までも飛行機と爆弾をしらされた。現代の科学力は、それが国際的な軍需生産者の独占資本に使役されるとき、戦争行為におかれた国々の軍事的拠点に、想像できないほど・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・日本の十数万人の旧治安維持法の被害者はもちろん、涜職、詐欺、窃盗、日本の法律によってとりしらべられたすべての人々で、刑事や検事からこの言葉をきかされなかった者はおそらく一人もないだろう。法学博士で大臣だった三土忠造でさえ、一九二九年か三〇年・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・鎌倉被害甚しかろうと云うので、国男のこと事ム所の父のことを思い、たまらなし。 九月四日 火曜日 午後四時五十七分福井発。 もう福井駅に、避難民が来、不逞鮮人の噂ひどく女などは到底東京に入れないと云う。安樹兄、信州の妻の兄の家・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・心配は直接本郷あたりが襲撃されることではなくて、思いがけず大規模の被害が生じたときその真中に安全な本郷、またはこの辺が、逃げ場のない袋の中に入ったことになるかもしれないことだ、という風に話された。 誰の話でも、本郷あたりは何かあっても最・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・世界ファシズムの発生につれ、ファシズムから被害を蒙むる社会層が、労働者・農民ばかりでなく、広く小市民・インテリゲンチャ、進歩的な自由主義者の範囲にまで及んできて、民族の自立とその文化的な伝統さえ抹殺されはじめたとき、世界をとりまく反ファシズ・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
出典:青空文庫