・・・「恐らく不老長寿の薬になる――近頃はやる、性の補強剤に効能の増ること万々だろう。」「そうでしょうか。」 その頬が、白く、涼しい。「見せろよ。」 低い声の澄んだ調子で、「ほほほ。」 と莞爾。 その口許の左へ軽く・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・つり橋はおおぜいでのっからなければ落ちないであろうし、また断えず補強工事を怠らなければ安全であろうが、地震のほうは人間の注意不注意には無関係に、起こるものなら起こるであろう。 しかし、「地震の現象」と「地震による災害」とは区別して考えな・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・理由はまだよく分らないが、ことによるとこれは人工物の弱さを人工で補強することの出来る一例ではないかと思われた。両岸の崩壊箇所が向かい合っているのもやはり意味があるらしい。 県庁の入口に立っている煉瓦と石を積んだ門柱四本のうち中央の二本の・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・智能と資本とを縦横に駆使して、イギリスの良品高価に対する良品廉価生産・高賃銀低コストを目ざす科学主義工業という呼び名が、これらの人々によって、資本主義工業の弱点を補強したものとして提唱されつつあるのである。 大河内氏の著書は、鶏小舎を改・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・人類につくすことを主要な点として押し出されたこと、而して、そのおし出しが、現実生活の中に在って既に一つの人間性の非力化へ導く広き門であることを一部の作家が論じたが、その補強的な論の建て直しは当時の気分によって望ましいようには受けいれられなか・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・今回の顔ぶれはアカデミックな部分において、これまでの弱点が補強されている。しかも、長谷川如是閑氏が参加していることや、会則も綱領もないということなどは、何か質的に変化がもたらされたような誤解を一般に与え得、たしかに文芸懇話会よりは、時代的色・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・そして、この風潮は事大主義によって権力補強をはかっている社会階層により濃厚なのも当然ではないだろうか。 わたしたち日本の女は、女らしい日常性にたって、一つ「壁」というものについて考えて見よう。防火壁という場合、それはその壁自体が火をうけ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫