・・・ なるほど、最初の一月は一提の薬と、固定給四十円を交付したが、その後は口実を構えて補給薬も固定給も送らない。家賃、電灯代も忘れた顔をしていたのだ。 そんな風に扱われては、支店長たちも自然自滅のほかはないと、切羽つまった抗議の手紙を殆・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
昭和七年四月九日工学博士末広恭二君の死によって我国の学界は容易に補給し難い大きな損失を受けた。 末広君の家は旧宇和島藩の士族で、父の名は重恭、鉄腸と号し、明治初年の志士であり政客であり同時に文筆をもって世に知られた人で・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・その後から年とった女達が鍬の上に泥を引っかけたのを提げて弾薬補給の役目をつとめるためについて行くのである。とうとうつかまって顔といわず着物といわずべとべとの腐泥を塗られてげらげら笑っている三十男の意気地なさをまざまざと眼底に刻みつけられたの・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・すなわち振動体の減衰するエネルギーを弓の仕事で補給する、その補給の回数と適当な位相とを振動体の振動自身が調節するというのである。この点では実際ラジオなどに使う真空管とよく似た場合である。 しかしこれだけの説明で満足しないでもう一歩深く立・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・自分の子のためになら随分と面倒くさいヴィタミン補給の方法もとるであろうと思う。こういう母親は、自分の子にトマトをたべさせようと思って、店先に一つしかないのを見れば、もう一人そこにいる母親がどんな切迫した必要から、やはりその一つのトマトを欲し・・・ 宮本百合子 「科学の精神を」
・・・ しかし現実では、顕治は不如意のために疲労していた体の栄養補給ができず、結核を発病した。[自注4]クリムサムギンのおじいさん――百合子はマクシム・ゴーリキーの伝記を書こうとしていた。[自注5]去年も一昨年もひどい夏でした――一九・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・八年制になると、先生の補給は、どうなるだろう。小学校の先生の過労も注目されて来ている。音楽の先生などは、これまでの殆ど倍の授業時間となるということをきいた。併合して教えるとするにしても、いちどきに百人から百五十人を入れる唱歌教室をどの小学校・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
出典:青空文庫