・・・しかし私は議論というものはとうてい議論に終わりやすくって互いの論点がますます主要なところからはずれていくのを、少しばかりの議論の末に痛切に感じたから、私は単に自分の言い足らなかった所を補足するのに止めておこうと思う。そしてできるなら、諸家に・・・ 有島武郎 「想片」
・・・以後の大戦の生活をも補足し、そうして、私の田舎臭い本質を窮めたいと思った。 私が東京に於いてはじめて発表した作品は、「魚服記」という十八枚の短篇小説で、その翌月から「思い出」という百枚の小説を三回にわけて発表した。いずれも、「海豹」とい・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・自分の非力を補足するために、かの二刀流を案出したとかいう話さえ聞いている。武蔵の「独行道」を読んだか。剣の名人は、そのまま人生の達人だ。 一、世々の道に背くことなし。 二、万ず依怙の心なし。 三、身に楽をたくまず。 四、一生・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ この二つの錯覚の場合は映画の写像の、客観的には不安全な写実能力が、いかに多く観客の頭の中に誘発される連想の補足作用によって助長されているかを示す実例として注意さるべきものかと思われるのである。 十三 「世界の終わり」と・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ 不完全なる蓄音機から本物の音楽を聞き出そうとする人にとってもう一つの助けになるのは人間心理の特徴として知られた補足作用である。自分の文章の校正刷りを見る時に顕著な誤植を平気で読み過ごすと同じような誤謬が、不完全なレコードを完全に聞かせ・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・ 私は全くへりくだった心持でいわば私たちの知らなさの程度を明らかにすることで、このリストがいつか段々補足され質を高められたものとなり、いくらか有益な読書の手引きとなって若い婦人たちがそのより年若い弟妹たちに与えるにたえるものとなることを・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ 附記 大会速記が不備だったので補足整理しました。〔一九四九年二月〕 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・に対して、憤りをもって頭を高くもたげている伊藤整が、朝日に発表した文章の冒頭の数行にこめられている真実を、わたしは、この作者が近代的な小説の成立にふれてかいている「歯車の空転」に補足したいと思う。「既存の社会通念」の内容は複雑広汎であるけれ・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・追記 この速記録は例によってわたしの早口から混乱したものになっていたので補足したと一緒に後半の通信活動の分を整理して殆ど新しく書きました。サークル活動が種々の問題を提起しているし、民主主義文学の成長の基盤が漠然と人民的とか労働者生活・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
出典:青空文庫