・・・彼はあり金をはたいて、盗難よけのベルの製造をはじめた。製品が出来たので、彼は注文を取って廻った。そして帰って見ると、製品の盗難よけベルはいつの間にか一つ残らず盗まれていた。 織田作之助 「ヒント」
・・・客と主人との間の話で、今日学校で主人が校長から命ぜられた、それは一週間ばかり後に天子様が学校へご臨幸下さる、その折に主人が御前で製作をしてご覧に入れるよう、そしてその製品を直に、学校から献納し、お持帰りいただくということだったのが、解ったの・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・ もしも需要者のほうで粗製品を相手にしなければ、そんなものは自然に影を隠してしまうだろう。そしてごまかしでないほんものが取って代わるに相違ない。 構造物の材料や構造物に対する検査の方法が完成していれば、たちの悪い請負師でも手を抜くす・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・それがために暗黒アフリカの真只中にロンドン製品の包紙がちらばるようなことになる。提燈とネオン燈とが衝突することになる。それが騒動のもとになるのである。 こういう騒動をなくするにはあらゆる交通機関をなくしてしまうか、ただしはこれらの機関を・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・是れ現代の家庭に在っては台所で使う鍋釜のたぐいも悉く廉価なる粗製品となり、破損すれば直様古きを棄てて新しきを購うようになった為めであろう。何物にかぎらず多年使い馴れた器物を愛惜して、幾度となく之を修繕しつつ使用していたような醇朴な風習が今は・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・衣料関係の労働は、こういう大量の既製品製作ばかりではない。金モール細工をする人、刺繍をする人、さけた布地をつぐ専門家、大体それは女の仕事であった。或は、立って働くには不便な不具の男の仕事とされた。アンデルセンの「絵のない絵本」の一番初めの話・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・婦人達が燃料の欠乏、シャボンその他の洗剤の欠乏、繊維が悪くなって洗えもしないスフの製品が殖えたことなどで、毎日の婦人の仕事が一層困難になって来たと同じ時に、農村の婦人達が田圃で働く木綿着物がなくなった。手拭は足りなくなって来た。肥料・農具も・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫