・・・ゆるに等しいYの不埒をさえも寛容して、諄々と訓誡した上に帰国の旅費まで恵み、あまつさえ自分に罪を犯した不義者を心から悔悛めさせるための修養書を買って与えたという沼南の大雅量は普通人には真似ても出来ない襟度だと心から嘆服した。「全く君子だ・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・こと、民間性が重んじられるべきこと、文化の相互的理解を深める機会として大国の襟度の示さるべきこと、又、年を同じくして日本文化連盟主催の万国文化大会も開催される由であるが、これとペンクラブの大会とは「依立する主軸と意図に相違ある」こと等が、諸・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・だが、そのように効果的に描き出された成功よりも更に深く横わる文学の問題、一箇の芸術家がこの人生にいかに面するかの問題は作者火野葦平氏がその効果と、優者の襟度としてのそのあたたかさを、自身に向ってどう見ているかというところにこそかかっている。・・・ 宮本百合子 「生産文学の問題」
・・・親としての作家と、作家としての作家と、区別はないようであるけれども、駄作を承認する襟度に一層の自信を持つようになったのは、親としての作家が混合して来た結果である場合によることが多いと思われる。人間が行動するとき、子のあるものと子のないものと・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫