・・・それでも猿は路ばたの木の上に犬の襲撃を避けた後だったから、容易に雉の言葉を聞き入れなかった。その猿をとうとう得心させたのは確かに桃太郎の手腕である。桃太郎は猿を見上げたまま、日の丸の扇を使い使いわざと冷かにいい放した。「よしよし、では伴・・・ 芥川竜之介 「桃太郎」
・・・ 洪水の襲撃を受けて、失うところの大なるを悵恨するよりは、一方のかこみを打破った奮闘の勇気に快味を覚ゆる時期である。化膿せる腫物を切開した後の痛快は、やや自分の今に近い。打撃はもとより深酷であるが、きびきびと問題を解決して、総ての懊悩を・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・「俺たちは、今夜、あらしを呼んで、街を襲撃しよう。」と、ひのきの木は、どなりました。「私たちの力で、ひとたまりもなく、人間の街をもみくだいてやろう。」と、たかは叫びました。 たかは、黒雲に、伝令すべく、夕闇の空に翔け上りました。・・・ 小川未明 「あらしの前の木と鳥の会話」
・・・不意に軍用列車が襲撃された。 電線は切断されづめだった。 HとSとの連絡は始終断たれていた。 そこにパルチザンの巣窟があることは、それで、ほぼ想像がついた。 イイシへ守備中隊を出すのは、そこの連絡を十分にするがためであった。・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・そして、次の襲撃方法の参考とした。 中隊長は、それをチャンと知っていた。しかし、パルチザンと百姓とは、同じ服装をしていれば、見分けがつかなかった。「逃げて行くパルチザンなんど、面倒くさい、大砲でぶっ殺してしまえやいいじゃないか。」・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・列車を顛覆され、おまけに、パルチザンの襲撃を受けて、あわくって逃げだしたこともある。傷は、武器と戦闘の状況によって異るのだ。鉄砂の破片が、顔一面に、そばかすのように填りこんだ者は爆弾戦にやられたのだ。挫折や、打撲傷は、顛覆された列車と共に起・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・非常時というのは、つまり、敵の襲撃を受けたような場合を指すのであった。 吉田はかまわず出て行った。小村も、あとでなんとかなる、――そんな気がして、同様に銃を持って吉田のあとからついて行った。 吉田は院庭の柵をとび越して二三十歩行くな・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・わかい夫婦の寝ごみを襲撃するなど、いやであったから、僕はそのまま引返して来たのである。いらいらしながら家の庭木の手入れなどをして、やっと昼頃になってから僕はまたでかけたのだ。まだしまっていたのである。こんどは僕も庭のほうへまわってみた。庭の・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・私は、このどろぼうの襲撃を、あくまで、深夜の客人が、つまらぬところから不意に入来した、という形にして置きたかった。そうして置けば、私は、それを警察にとどけなくても、すむのである。私は、あくまで、かれを客人のあつかいにしてやろうと思った。そん・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・銀行を襲撃しちゃった。」 憮然と部屋の隅につっ立っていた青年は、「たしかですか?」蒼ざめていた。「もう、五六日したら、記事も解禁になるだろうと思いますが。」善光寺は、新聞社につとめていた。 さちよは、静かに窓のカーテンをあけ・・・ 太宰治 「火の鳥」
出典:青空文庫