・・・もっともこの点では英国諸島はきわめて類似の位置にあるが、しかし大陸の西側と東側とでは大気ならびに海流の循環の影響でいろいろな相違のあることが気候学者によってとうに注意されている。どちらかと言えば日本のように大陸の東側、大洋の西側の国は気候的・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 小石川区内では○植物園門前の小石川○柳町指ヶ谷町辺の溝○竹島町の人参川○音羽久世山崖下の細流○音羽町西側雑司ヶ谷より関口台町下を流れし弦巻川。 芝区内では○愛宕下の桜川また宇田川○芝橋かかりし入堀 赤坂区内では○溜池桐畠の溝渠・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・ 吉原田圃の全景を眺めるには廓内京町一、二丁目の西側、お歯黒溝に接した娼楼の裏窓が最もその処を得ていた。この眺望は幸にして『今戸心中』の篇中に委しく描き出されている。即ち次の如くである。忍ヶ岡と太郎稲荷の森の梢には朝陽が際立ッて・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・石切場の壁はすっかり白くその西側の面だけに月のあかりがうつっていた。 野宿第三夜(どうも少し引き受けようが軽率だったな。グリーンランドの成金がびっくりする程立派な蛋白石などを、二週間でさがしてやろうなんてのは・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・イギリスの公園と云えば世界に有名だけれども、ロンドンの東部の公園では、遊んでいる子供も大人も顔色から言葉つきからその骨組の工合まで、西側の人々と異っているというのは何故だろう。 巴里の凱旋門の下では、夜も昼も無名戦士の墓辺の焔がもやしつ・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・低いそっちは東で、反対の西側、うちのある方は、見はらしがきかなくて、お寺になっていた。 お寺の庭は土がかたく平らで、はだしで繩とびをするのに、ひどく工合がよかった。春のまだひいやりする土が、柔らかな女の子のはだしの足の裏に快く吸いついた・・・ 宮本百合子 「道灌山」
○西側の腰高窓の床の間よりに机を出して坐った。そこからは灰色の雨雲が走る空の下に 頂を濃い霧につつまれた小高い山とその手前の樹木の茂った丘陵とが見晴せた。狭い田圃をへだてたこちら側は 山陽線海岸まわりの幾条もの線路になってい・・・ 宮本百合子 「無題(十二)」
・・・客間はこの書斎の西側に続いているので、仕切りは引き戸になっていたと思うが、それは大抵あけ放してあって、一間のように続いていた。客間の方は畳敷で、書斎の板の間との間には一寸ぐらいの段がついていたはずである。この客間にも、壁のところには書棚が置・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫