・・・ 夫婦は、眼を見合した。「どれ……」 お初が起って行った。そして怖々に、障子を開けて塀越しに覗くと、そのまま息を凝らしてしまった。「何だ、どうした?」 それでも、お初は黙っている。 利平は、傷みを忘れて、赤ン坊を打っ・・・ 徳永直 「眼」
・・・ 生田さんは新聞紙が僕を筆誅する事日を追うに従っていよいよ急なるを見、カッフェーに出入することは当分見合すがよかろうと注意をしてくれた。僕は生田さんの深切を謝しながら之に答えて、「新聞で攻撃をされたからカッフェーへは行かないという事・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・と云うどら声がいきなりひびいたので読のをやめて一度にふりかえったがじいやがあんまり変な形をして居るので眼を見合してニヤニヤして居る。じいやは一向そんな事にはとんじゃくなく「十二文ノコウ高はありませんかねー」と又ここでもくりかえした。「何をあ・・・ 宮本百合子 「大きい足袋」
・・・形式の見合いをさせ、おなかのことも承知でいよいよよいとなる。男曰く「じゃあこれから毎晩来るが、あなた、と呼ぶんだぞ」 馬鹿女うれしそうに「はい」 ○肝癪のいろいろ 或中尉、ひどいカンシャクモチ 何かを・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・二年、三年とそれを着て、結婚の話が起るようになって、見合いの写真をとったのが今もあるが、少し色の褪せかけた手札形の中で、角帽をかぶり、若々しい髭をつけた父が顔をこちらに向けて立ち、着ているのは切れるだけ切りちぢめて裾が膝ぐらい迄しかなくなっ・・・ 宮本百合子 「わが父」
・・・識らぬ少女と見合いをして縁談を取りきめようなどということは自分にも不可能であったから、自分と同じ欠陥があって、しかも背の低い仲平がために、それが不可能であることは知れている。仲平のよめは早くから気心を識り合った娘の中から選び出すほかない。翁・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫